『親族法・相続法〔第4版〕』追補情報
 2013年4月公刊の『親族法・相続法【第4版】』は,2014年4月発行の第2刷において以下の通り,追加・訂正を行いました。(→印刷用pdfファイル
2014年5月21日掲載
《82頁下から4行目からはじまる段落を以下の通りに変更する。》
 面会交流の履行確保手段としては,面会交流が家庭裁判所の調停または審判 で定められた場合には,履行勧告(家事289条)による実現が..えられる。そ の他,監護親が面会交流に応じない場合,非監護親からの申立てによる親権 者・監護者の変更(819条6項・766条2項)も可能性がある。監護親に対し非 監護親が子と面会交流をすることを許さなければならないと命ずる審判におい て,面会交流の日時または頻度,各回の面会交流時間の長さ,子の引渡しの方 法等が具体的に定められているなど監護親がすべき給付の特定に欠けるところ がないといえる場合は,監護親に対し間接強制決定をすることができる(最決 平成25年3月28日(平成24年(許)第48号)裁判所時報1577号6頁,反対にこ れらの要件を満たさないとして間接強制を否定した判例として最高裁同日の同 第41号裁判所時報1577号4頁,第47号同6頁参照)。なお,直接強制による方 法は,事柄の性質上これになじまないというべきである。いずれにせよ,法的 強制による実現が優先するべきではなく,当事者の理解と協力を前提に,その 環境調整を図ることが重要となろう。
《110頁「(3) 嫡出推定の前提としての婚姻」に以下の段落を付け加え る。》
 男性への性別の取扱いの変更の審判を受けた者がその後に婚姻し,婚姻中に その妻が子を懐胎したときは,民法772条により,その子はその者の子と推定 される(最決平成25年12月10日裁判所時報1593号4頁)。
《111頁「(3) 要件」を以下の通りに変更する。》
 夫は,生まれた子の嫡出性を承認したり(776条),子の出生を知ってから1 年を経過したときには,嫡出否認の訴を提起することができない(777条)。こ のように当事者適格を限定し,厳格な要件を定めた目的は,第三者による家庭 への介入を防止し,嫡出父子関係を早期に確定することにある,といわれてい る。この結果,真実の父子関係と法的な父子関係の不一致を是正する可能性は きわめてかぎられることになる。これに対し,嫡出否認の出訴期間を過ぎ,自 然の父子関係のない未成年の子に対する親子関係を否定する法的手段が残され ていない父に対して,母がこの子に関する離婚後の監護費用の分担を求めるこ とは,権利濫用に当たると判示した判例がある(最判平成23年3月18日家裁月 報63巻9号58頁)。
《118頁「(5) 任意認知の無効」の第3段落を以下の通りに変更する。》
 認知無効の訴を提起することができるのは,「子その他の利害関係人」であ る(786条)。認知者は民法786条に規定する利害関係人に当たり,血縁上の父 子関係がないことを知りながらした認知をした場合であっても,自らした認知 の無効を主張することができる(最判平成26年1月14日裁判所時報1596号1 頁)。認知無効の訴の被告となるのは,子が原告であるときは認知者であり, 第三者が原告であるときは認知者および子の双方が被告となり,一方が死亡し ていれば生存する他方だけを被告とすればよい。認知者が死亡しているときは, 被認知者は,検察官を被告として訴を提起することができる(最判平成元年4 月6日民集43巻4号193頁,人訴法42条2項による26条2項の準用)。
《151頁【論点No.8】の最後に以下の文章を付け加える。》
国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約(ハーグ条約)
 近年の国際結婚,離婚の増加につれて,離婚後の子ども監護をめぐる紛争も国際的 ルールが必要になった。2013年に「国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約 (ハーグ条約)」が承認され,2014年1月にこの条約の実施のための法律が成立したこ ろから,2014年4月から同条約が発効した。この条約によれば,国境を越えて子が連 れ去られた場合,原則として子は元の居住国へ返還し,元の国の司法機関が子の監護 について判断すべきこと,離れて生活する親子が面会交流できるよう国が支援するこ ととされた。
《167頁「@未成年者に対して親権を行う者がないとき」の第1段落2行目, 「親権喪失(834条),」と「親権の辞任(837条)」の間に「親権の停止 (834条の2),」の文言を加える。》
《246頁「U.法定相続分」の「1.意義」から「2.法定相続分(1) 同順位血族相続人が共同相続する場合の相続分」を以下の通りに変更す る。》
 1.意 義
 民法の規定によって定められている相続分を法定相続分という。法定相続分 は,同順位血族相続人については相続人間の平等(均分相続)を,また配偶者 については共同生活における夫婦の協力関係を考慮に入れて,最低でも2分の 1の相続分の確保を基礎において定められている。

 2.法定相続分
民法の定める法定相続分は以下のとおりである。  (1) 同順位血族相続人が共同相続する場合の相続分 子,直系尊属または兄弟姉妹が数人あるときには,その相続分は相等しい (900条4号本文)。子について実子と養子,嫡出と非嫡出の区別,直系尊属に ついて父方と母方の区別,兄弟姉妹について実方と養方の区別は存在しない。 しかし,父母の双方を同じくする兄弟姉妹(全血の兄弟姉妹)と父母の一方の みを同じくする兄弟姉妹(半血の兄弟姉妹)が共同相続する場合には,半血の 兄弟姉妹の相続分は全血の兄弟姉妹の相続分の2分の1とされ,差が設けられ ている(900条4号ただし書)。

【論点No.13】非嫡出子相続分差別の違憲性 1947(昭和22)年の民法改正以来,900条4号ただし書前段には,「嫡出でない子の 相続分は,嫡出である子の相続分の2分の1と」する規定が置かれてきた。この,い わゆる非嫡出子の相続分差別については,従来から,憲法14条の法の下の平等の要請 との関係が議論されてきたが,最高裁判所大法廷は,平成7年7月5日の決定(民集 49巻7号1789頁)によって,「民法が法律婚主義を採用している以上,法定相続分は 婚姻関係にある配偶者とその子を優遇してこれを定めるが,他方,非嫡出子にも一定 の法定相続分を認めてその保護を図ったものであると解される。」とした上,そのよ うな立法理由にも合理的な根拠があるというべきであり,立法府に与えられた合理的 な裁量判断の限界を超えたものということはできないとして,合憲と判示した。その 後も,小法廷では合憲判断が続いたが,平成25年9月4日に,同日決定で2件,違憲 と判断する大法廷決定が下された。以下には,民集登載された決定を紹介する。  最大決平成25年9月4日民集67巻6号1320頁  <事実> 平成13年7月に死亡したAの遺産につき,Aの嫡出子ら(代襲相続人を含 む)が,Aの嫡出でない子を相手方として申し立てた遺産分割事件。  <判旨> 相続制度をどのように定めるかは,立法府の合理的な裁量判断に委ねられ ているものというべきであり,嫡出子と嫡出でない子との間の法定相続分に関する区 別も,「立法府に与えられた上記のような裁量権を考慮しても,そのような区別をす ることに合理的な根拠が認められない場合には,当該区別は,憲法14条1項に違反す るものと解するのが相当である」。平成7年大法廷決定は立法府に与えられた合理的 な裁量判断の限界を超えたものということはできないが,判断の基準となる「事柄は 時代と共に変遷するものでもあるから,その定めの合理性については,個人の尊厳と 法の下の平等を定める憲法に照らして不断に検討され,吟味されなければならない」。  「昭和22年民法改正時から現在に至るまでの間の社会の動向,我が国における家族 形態の多様化やこれに伴う国民の意識の変化,諸外国の立法のすう勢及び我が国が批 准した条約の内容とこれに基づき設置された委員会からの指摘,嫡出子と嫡出でない 子の区別に関わる法制等の変化,更にはこれまでの当審判例における度重なる問題の 指摘等を総合的に考察すれば,家族という共同体の中における個人の尊重がより明確 に認識されてきたことは明らかである」こと,また「法律婚という制度自体は我が国 に定着しているとしても,上記のような認識の変化に伴い,上記制度の下で父母が婚 姻関係になかったという,子にとっては自ら選択ないし修正する余地のない事柄を理 由としてその子に不利益を及ぼすことは許されず,子を個人として尊重し,その権利 を保障すべきであるという考えが確立されてきているものということができる」こと などを総合すれば,遅くとも本件「相続が開始した平成13年7月当時においては,立 法府の裁量権を考慮しても,嫡出子と嫡出でない子の法定相続分を区別する合理的な 根拠は失われていたというべきである」。  「本決定は,本件規定が遅くとも平成13年7月当時において憲法14条1項に違反し ていたと判断するものであり」,平成7年大法廷決定ならびにその後の小法廷判決及 び小法廷決定が,「それより前に相続が開始した事件についてその相続開始時点での 本件規定の合憲性を肯定した判断を変更するものではない」。
《376頁下から3行目,「(955条)」を,「(995条)」へと訂正する。》


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